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左兵衛佐(さひょうえのすけ)の職にある、源資時(みなもとのすけとき)は 治承二年三月二三日、滝尻宿で今様を教えはじめて以来、二年の間に 今様、娑羅林、片下歌(かたおろしうた)、早歌、足柄、黒鳥子(くろとりこ)、旧川(ふるかわ)、伊地古、旧古柳(ふるこやなぎ)、権現、御幣等(みてぐら)、物様、田歌、に至るまで みな、私より習い 私も、自らの知るところを余す事なく教え終わりました。 これは、熊野参詣の道すがら始まった事でございますゆえ 長年、私の後を継いで今様を歌う者はいないと思っておりましたところ まことに、熊野権現の御心のなすところでございましょうか。 資時は先祖代々の声楽の家柄でございます。 他の素質のない者とは異なり 私が教えた今様の歌い方を、正統に受け継いだのは やはり、声楽の道の者だからでございましょうか。 |
・左兵衛佐(さひょうえのすけ) 左兵衛府の次官。正六位下相当。 左兵衛府:宮門の守備、行幸、行啓の供奉 都内の巡視などを行いま す。 兵衛府には 左右二府があり‘左‘の兵衛府のことです。 ・源資時(みなもとのすけとき) 源資賢(みなもとのすけかた)の子です。 後白河院の近臣で‘平家物語‘にも名を見ることができますが 若年に 出家しています。 ・治承二年三月二十三日 一一七八年、後白河院五十二歳の時です。 ・滝尻宿 滝尻王子の所在地で中辺路(和歌山県田辺市から熊野本宮に至る山道) の途中にあります。 滝尻王子は‘九十九王子‘の中の‘80番目‘の王子で 特に格式の高い ‘五体王子‘の一つです。 滝尻王子は熊野三山の霊域への入口で富田川と石船川が合流する地点 にあり 泉三朗忠衡(いずみさぶろうただひら)の話などが残っておりま す。 五体王子:九十九王子の中でも特に格式の高い以下の五つの王子のこ とです。 37、藤代若一王子(藤白王子のことです)(海南市) 66、切目王子(南部町) 77、稲葉根王子(上富田町) 80、滝尻王子(中辺路町) 93、発心門王子(本宮町) 九十九王子は熊野三山に祀られる神仏を祀ってあるわけでございますが 特に、熊野十二所権現のうち 以下の五宮を五所王子と言います。 五所王子:若宮・禅師宮・聖宮・児宮・子守宮 本地仏:十一面観音・地蔵尊・竜樹菩薩・如意輪観音・聖観音 祭神:天照大神(あまてらすおおかみ)・忍穂耳尊(おしほみのみこと)・ 瓊々杵尊(ににぎのみこと)・彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)・ うが草葺不合尊(うがやふきあえずのみこと) 五所王子を祀る王子社を五体王子と言い 三山から勧請したものと考 えられています。 この五体王子では 熊野御幸において今様や舞などの奉納が行われまし た。 後白河院の熊野参詣に随行した源資時が、滝尻王子で初めて院から 今様の伝授を受けたと言うことでございます。 参考:16 熊野参詣(第一回目) 「熊野参詣道筋マップ」と「九十九王子」 ・この「26 新たな弟子」と次回のお話は 後年、追記されたものと考えられ ているそうでございます。 |