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| 歌舞伎座 第三部 三階B中央の席 |
*通し狂言 裏表先代萩(うらおもてせんだいはぎ) 四幕六場 |
裏表先代萩(うらおもてせんだいはぎ) 下男小助 乳人政岡 仁木弾正:勘三郎 倉橋弥十郎 細川勝元:三津五郎 八汐:扇雀 大場道益 横井角左衛門:彌十郎 沖の井:孝太郎 荒獅子男之助:勘太郎 足利頼兼:七之助 渡辺外記左衛門:市蔵 松島:高麗蔵 家主茂九兵衛:家橘 下女お竹:福助 栄御前:秀太郎 序幕 花水橋の場 舞台は鎌倉花水橋のたもと 足利頼兼は、お家乗っ取りを企てる大江鬼貫や仁木弾正にそそのかされ大磯の廓、高尾のもとへ通い 折りしも、廓からの帰り道 駕籠に乗った頼兼は待ちぶせしていた刺客に襲われます。 頼兼が刺客と闇の中で立ち回りとなるところへ 絹川谷蔵が駆けつけ頼兼を助けます。 二幕目 大場道益宅の場 舞台は町医者の大場道益の家 医術に優れた道益は官領・山名宗全の屋敷にも出入していますが 隣家、下駄屋の下女・お竹に横恋慕していて 折から用事で訪ねて来たお竹を口説いています。 道益がお竹に迫ろうとするところへ 道益への礼を持参した伊勢屋の千助が訪ねてきます。 この隙にお竹が立ち去り 入れ違って、家主・茂九兵衛が訪ねて来ますが 玄関先に置いたままになっている伊勢屋からの礼の品を見て道益の家に上がりこみます。 お竹を逃がして面白くない道益でしたが 家主・茂九兵衛に促されて晩酌のため奥へ入ります。 ここへ、屋敷へ出かけていた道益の弟・宗益が下男・小助を供に帰ってきます。 家主・茂九兵衛は帰宅した宗益に、道益は晩酌をしていると告げ 相伴に与ろうと共に奥へ行きます。 宗益と共に戻って来た小助が飲みに出かけようとするところへ お竹の父親・佐五兵衛が訪ねて来て小助に密かにお竹を呼んでくれるように頼みます。 お竹がやって来ると佐五兵衛は 甥が奉公先の金を使い込んでしまったので、その返済の金、二両を用立てて欲しいと頼みます。 奉公先の下駄屋の女房と仲の悪いお竹は困りますが 父親のために都合してみると言うのでした。 話の最中にお竹が下駄屋に呼ばれ連れて行かれたので 佐五兵衛は謝りに行こうと、この場に商売道具の花籠を置いて立ち去ります。 しばらくすると下駄屋からお竹を折檻する音が聞こえてきたので 奥から家主・茂九兵衛が現れ、仲裁しに行きます。 道益、宗益二人になると 道益は 先刻、宗益が訪ねていた屋敷での様子を聞きます。 実は、道益は頼家に代わり足利家を相続した鶴千代を毒殺するための毒薬を大江鬼貫より頼まれており 宗益がその毒薬を届け代金二百両を受け取って来たのでした。 用心深い道益は 極印のついた金二百両を確認すると 毒薬の調合を宗益に教え、屋敷に伝えるよう再び使いに出します。 宗益が使いに出かけると道益は奥の座敷で休むことにするのですが これまでの経緯を小助が見ていたのでした。 しばらくして、奉公先では借りる事ができなかった二両を道益に借りるために お竹が訪ねてきます。 応対に出た小助は お竹に、借金の事を手紙に書いて置いておくのが良いと勧めると 油を買い行くふりをして家を出て、陰から様子を窺います。 お竹は言われたとおりに手紙を書いて奥座敷で寝ている道益の枕元に置きますが 目を覚ました道益が手紙を読み二両を貸すと、お竹に言い寄ってくるので お竹は慌てて道益の下駄を履いて逃げて行きます。 お竹が逃げ去ると入れ違えに小助が忍び込んで来て 道益を殺害し懐にあった先刻の二百両を奪い縁の下に隠します。 ここへ宗益が戻って来たので 小助は外に出ると、油を買って来たふりをして帰って来ます。 宗益と共に道益の死骸を見て驚く小助でしたが この間に縁の下に隠した金を犬が掘り出し お竹の父親・佐五兵衛の花籠に入れてしまいます。 佐五兵衛は何も知らずに花籠を担いで持ち去り 小助は縁の下から金を取り出そうとしますが、なくなっているので慌てるのでした。 三幕目 第一場 足利家御殿の場 御家横領を企む大江鬼貫や仁木弾正らによって足利家当主・頼兼は隠居へと追いやられてしまいます。 家督は頼兼の嫡子・鶴千代が相続しますが 鬼貫、弾正らが鶴千代の命を奪おうと計画します。 しかし、荒獅子男之助、乳人政岡が鶴千代を守っていました。 舞台は足利家の御殿 先刻、鶴千代が沖の井の用意した御膳に手をつけなかったことを 乳人・政岡が褒めております。 命を狙われている鶴千代は毒殺される危険があるので 政岡の作ったもの以外は食さぬようにしており また、何か事が起きたときには政岡の息子・千松が代わって食べるように言いつけられていたのです。 お腹が空いてしかたのない鶴千代と千松のために 政岡は御膳の用意を始めるのでした。 するとここへ 管領山名宗全の妻・栄御前が鶴千代の病気見舞いに来たと知らせがあります。 政岡は命を狙われている鶴千代を 病気と言って御殿から出さないようにしておりました。 しかし、見舞いの知らせに 政岡は出迎えの支度をするのでした。 政岡は鶴千代の介添えをして 弾正の妹・八汐、沖の井、松島と共に栄御前を出迎えますが 栄御前が見舞いに持参した菓子に鶴千代が手を出そうとしたのでこれを止めるのでした。 しかし、政岡が止めたのを見た栄御前は なぜ止めるのかと言い、政岡に菓子を勧めるよう迫ります。 政岡がどうにもならずにいるところへ 奥から千松が走り出してきて、手にした菓子を口に入れ箱に残った菓子を蹴散らすと 今度は急に苦しみだすのでした。 これを見た八汐が千松を捕らえ懐剣で突き刺します。 これに皆は驚きますが 政岡は急いで鶴千代を抱きかかえ懐剣に手をやり身構えます。 八汐に刺された千松が苦しみ息絶えても 顔色を変えることもなく鶴千代を守り続けるのでした。 この様子を見ていた栄御前は人払いをして政岡を呼び 鬼貫、弾正らの企みの証拠となる連判状を渡し足利家御殿を後にします。 栄御前は政岡が千松が殺されても顔色一つ変えず悲しむ様子もない事から 幼い内に我が子・千松を鶴千代と取り替えて育てていたのだろうと思い込んだのでした。 栄御前を見送り一人になった政岡は 息絶えてしまった我が子に駆け寄り抱きかかえ その忠義を褒め泣き崩れるのでした。 しかしこの様子を奥から見ていた八汐は 悪事の企てを知った政岡に斬りかかりますが 政岡は御家横領を企む敵、我が子の仇、と八汐を討ち果たすのでした。 この時、一匹の鼠が現れ政岡の懐中から連判状を抜き取り咥えて逃げて行きます。 第二場 床下の場 偽りによって鶴千代から遠ざけられた荒獅子男之助は御殿の床下に潜んで鶴千代を守っておりました。 するとそこへ連判状を咥えた先ほどの鼠が現れたので 男之助は鼠を打ち据えるのですが逃げられてしまいます。 逃げた鼠の後から現れたのは 妖術を使って鼠に姿を変えていた仁木弾正でありました。 弾正は連判状を懐に 悠然と立ち去るのでした。 大詰 第一場 問注所小助対決の場 舞台は幕府の問注所 折りしも大場道益殺しの吟味が行われています。 吟味役の横井角左衛門は足利家お家横領を企む山名宗全の家臣で大場道益、宗益とも旧知の仲 毒薬の事が知れる事を恐れて 道益の殺害現場にお竹の下駄が残されていた事、お竹の借金を頼む手紙があった事などを証拠に お竹が犯人だと決め付けるのでした。 しかしここへ横井角左衛門と同様にこの事件を吟味する役目の倉橋弥十郎がやって来ます。 倉橋弥十郎は足利家のお家騒動を吟味している細川勝元の家臣でした。 横井角左衛門は、この件は落着したと言うのですが 倉橋弥十郎は宗益からの願書に目を通しはじめます。 折りしもここへ お竹の父親・佐五兵衛が花籠に入っていた血の付いた片袖に包まれた百九十八両と借りた二両を持ってやって来ます。 これを見た倉橋弥十郎は 片袖に包まれた百九十八両と借りた二両、共に同じ極印があることから 合わせて二百両の大金を町医者の道益がなぜ持っていたのかと言うのでした。 しかし横井角左衛門は お竹と父親・佐五兵衛の二人が犯人だと決め 小助は主人・道益のために仇を討って欲しいと言うのでした。 これを聞いた倉橋弥十郎は証拠の一品の血の足跡が残る渋紙を出し 小助に足跡を見せるよう言います。 ところが小助は 突然、腹痛になったと言い逃れをするのでした。 横井角左衛門は 犯人はお竹と父親・佐五兵衛で、吟味は済んだとし 戻ってきた金子を忠義の褒美として小助に与えようとします。 小助が喜んで金子を受け取ろうとすると 倉橋弥十郎の命で配下の者が小助をを押さえ襦袢を改めます。 すると小助の襦袢は片袖がなく 先刻、佐五兵衛が持って来た血のついた片袖と柄が同じでした。 ついに小助は罪を認め お竹と父親・佐五兵衛は倉橋弥十郎に感謝するのでした。 第二場 控所仁木刃傷の場 舞台は幕府評定所の控所 細川勝元の裁決で鶴千代に足利家の家督相続が許され 大江鬼貫や仁木弾正らは敗訴し、お家乗っ取りの企ては失敗しました。 渡辺外記左衛門らが控所で休息していると、呼び出しがあり 渡辺民部、山中鹿之助らがこの場を後にします。 渡辺外記左衛門が控所に一人残るところへ 仁木弾正が現れ斬りかかります。 評定所での大立ち廻りの末、駆けつけた渡辺民部らの加勢で渡辺外記左衛門は仁木弾正を討ちます。 折りしもここへ細川勝元が足利家本領安堵の墨付を持って現れます。 深手を負った渡辺外記左衛門でしたが 足利家本領安堵の墨付をもらうことができ 傷を負いながらも祝の舞を舞うのでした。 |
☆「裏表先代萩(うらおもてせんだいはぎ)」というのは「伽羅先代萩」のストーリーの間に世話物のお話を挿入して 元の時代物の部分を‘表‘、世話物の部分を‘裏‘として 一つのお話として上演した舞台です。 一人の役者が時代物と世話物を演じ分けるところに眼目があるという事で 1820年に(四)南北が 仁木弾正を世話でやりたいと言う(三)菊五郎のために書いた舞台「桜舞台幕伊達染(さくらぶたいまくのだてぞめ)」がはじめだそうです。 (参考:(3)菊五郎の政岡、弾正) 今の上演は黙阿弥が手を加えた1868年上演の「梅照葉錦伊達織(うめもみじにしきのだており)」によるもので この時は(5)菊五郎が小助と弾正を勤めているようで(政岡は(3)沢村田之助だったようです) なんとなく(5)菊五郎に宛てた舞台であったのかもしれません。 (参考:(5)菊五郎 (3)田之助) 「伽羅先代萩」と比べると上演回数も少なくて さらに、小助・政岡・弾正を三役で勤めたのは1995年(H7)国立での菊五郎丈と今回の勘三郎丈という事になります。 で、今回 一部から三部まで、あまり知らない演目が多いので 珍しく(笑)筋書きを購入したのですが 勘三郎丈のコメントに「政岡がやりたかった」と書いてあるのですね。 え〜だったら「伽羅先代萩」をやれば良かったのに っと、思ってしまいました。(^^ゞ コメントには「小助が一番合っていると思う」っと書いてあるのですが 確かに、一番合っていそうなキャラクターなのですが 私は、今回の舞台を見ておりまして一番良かったのは政岡だと思いました。 小助・政岡・弾正 どれも、今回が初役だそうなのですが 政岡が一番良かったです。 まず小助ですが 二幕目の「道益宅の場」での小助は、細かいところが、ただの段取りになっておらず リアルな感じで世話物の雰囲気がございます。 このあたりは 自在で見ていて楽しんでいられます。 ですけれど 勘三郎丈の‘人好きのする雰囲気‘が小助の中にもございまして お竹に対する様子などが人懐っこく感じられるので 心情としてイマヒトツ、小ズルイ小悪な感じが伝わってきません。 ‘何か思惑がありそう‘っというのは そのとおりなのですが、それが‘悪‘に見えずに ある意味、可笑しく見えてしまいます。 ‘憎めないキャラクター‘という事なのでしょうけれど わざわざ紙を濡らして顔を隠す様な計画的な殺人をするくらい悪い奴なのですから もっと、グッと深みのある怖さも同時に持っていていいと思うのです。 また「問注所」では 上手に座ったままですので 動きの少ない分、心情が見えるのでしょうけれど キリットしたところがないので‘ただのチョロイ奴‘に見えてしまいます。 ここは三津五郎丈もいらっしゃるのですから もっと、テンションが上がっても良い様な気がいたしました。 どちらの場でも 物足りなさを感じます。 弾正は「床下」は 3階席でしたので胸から上しか見えませんでした。(^^ゞ ですので表情しかわからないのですが 人の暖か味を感じてしまう弾正だったと思います。 怪しげな非情な感じが薄いのです。 ですけれど「刃傷の場」は良かったです。 あの、一つネジが飛んでしまったような チョッとヤバそうな怖さがとても良いです。 あんなのに追いかけられたら スッゴク怖いだろうな〜っと思ってしまいました。 で、政岡です。 政岡は大名家の乳人でございまして 舞台での状況は、緊迫しています。 ですので お役に格を感じますし、ある意味キッパリとした硬質な雰囲気があると思うのですが 勘三郎丈の政岡は‘暖か味‘‘情‘がございます。 フエルトの感触なのです。 時代物で義太夫で型に決まっているのですけれど それでも、細かいところがさりげなくリアルで そこに‘暖か味‘を感じるのです。 これは、好みかもしれませんが 作法どおりの格が好みであれば 勘三郎丈の政岡は少しくだけた心情に見えるかもしれません。 ですが、親子の情で見ると 良い政岡だと思いますし 勘三郎丈ならではの政岡だと思います。 「御殿」で鶴千代と千松に話しかける時も 子供の表情を見ながら話すように、子供の様子や顔を見る感じで話しかけます。 チョッと顔を覗き込むような時もあったりして 細かい事ですが、実際に何か困った事がある時に子供と話さなければならないと 自然と子供の顔色を見ながら話をするものなのですよね。 また、千松が八汐に刺された時に鶴千代を守って打掛の中に隠すように抱え込みますが この時も、鶴千代をピッタリ体に付ける様に抱え込んでいたようです。 型で見た目に‘絵‘で決まるというより 心情で決まっていく感じに見えました。 花道での”後には一人政岡が奥口窺ひ”から 舞台に戻って ”わが子の死骸抱き上げ”で千松の下手に付きますが ここまでの、うろたえ方の‘情‘のある雰囲気 ”コレ千松、よう死んでくれた”の台詞になってからの三味線との掛け合いの上手さ ”死骸にひしと抱きつき”で千松を抱きかかえるまで 政岡の格をはみ出さないところで‘情‘があり 型が崩れないところで細かくリアルで 見ておりまして舞台に‘味‘を感じました。 で、思いましたのが 勘三郎丈の政岡で「伽羅先代萩」が見たいっという事でございます。 できれば、「飯焚き」ありで見たいです。 なんとなく 退屈しないでシッカリ見られる様な気がいたします。(笑) 三津五郎丈の二役は似たお役なので 元の「伽羅先代萩」を知らないとチョッと区別が付きにくいかも知れないな〜っと思いました。 ですけれど「問注所」での倉橋弥十郎は相手にするのが小助やお竹ですので キッパリしておりますが、言葉の感じに柔らか味がございます。 で、「刃傷」の勝元は よりキッパリ感が増していて颯爽とした雰囲気と役柄の持つ強さがあるように見えました。 幕切れ前の「めでたいな」って いつも‘外記左衛門が横で苦しいのに、ホントニめでたい?‘っと思う事が多いのですが 今回は三津五郎丈に納得させられてしまったようでした。(笑) 秀太郎丈の栄御前は 重さがございます。 さらに 柔らかさがございますので 今回の勘三郎丈の政岡とバランスがとても良いと思いました。 他・・・。 福助丈のお竹は、余分なところがございませんで始終チャンと下働きの娘に見えました。 福助丈って こういうかわいそうなお役、良いのですよね。(^^ゞ 彌十郎丈の二役も 道益は‘ズル悪い‘感じ 横井角左衛門は武士の‘構えた悪さ‘の感じ 共に世話の悪い感じですが 演じ分けが良かったと思いました。 「道益宅」で弟・宗益の橘太郎丈がスッキリしておりましたので 彌十郎丈の兄・道益との対比が面白く 道益の‘したたかさ‘が強調されたようでした。 勘太郎丈の男之助は力強くて丁寧で良かったです。 七之助丈は 線が細いので、少し貫禄と申しましょうか大きさが無い感じですけれど ‘いま、廓から戻って来た‘艶っぽさはあったと思います。 市蔵丈が渡辺外記左衛門をお勤めで お若いのでチョッと辛いところもございましたが 勘三郎丈の弾正との立ち回りも大きく、三津五郎丈の勝元とのやり取りも深さがありよかったです。 ‘裏‘の佐五兵衛・菊十郎丈の作る雰囲気が良いです。 これだから舞台に篤みが出るのでしょうね。 今回の観劇で8月の歌舞伎座・納涼大歌舞伎は一部〜三部まで全て見たわけですけれど ようやく!三部を見まして‘あ〜 今月、歌舞伎座ではじめて歌舞伎の舞台を見たよ‘っと思いました。(^^ゞ 「裏表先代萩」、時代物と世話物の雰囲気の違いが面白くて 緩急のある舞台で良かったです。 とくに、「花水橋」から「道益宅」に替わった時の下座の三味線と 「問注所」から「控所」へ世話から時代物へ雰囲気が替わる時の幕引きでの下座の時計 ここのスイッチはお話全体の流れで面白かったところでございます。 できれば いつもの大歌舞伎で もう少し時間の余裕を持って、もう一度見てみたいと思いました。 |