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| 歌舞伎座 夜の部 一階前方花道よりの席 |
*双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき):引窓 一幕 *日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら) 竹本連中 *心中天網島(しんじゅうてんのあみじま) 玩辞楼十二曲の内:河庄(かわしょう) 一幕 |
双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき):引窓 南与兵衛 後に南方十次兵衛:菊五郎 濡髪長五郎:左團次 お早:魁春 お幸:田之助 舞台は都の南東・八幡の村の南与兵衛の家でございます。 与兵衛の留守、母・お幸と女房・お早、二人のところへ 名高い相撲取りの濡髪長五郎が 訪ねてまいります。 長五郎はお幸の前夫との子で小さい時分に養子に出されておりました。 この長五郎が都で贔屓の客のために人を殺してしまい 母・お幸に暇乞いのためにやって 来たのでした。 与兵衛の女房・お早は以前、都で廓勤めをしていて長五郎とは知り合いでありましたので お幸と共に長五郎をもてなそうといたしますが 長五郎は、欠けた椀に一膳盛でいいと言 います。 これを聞いて不審に思うお幸とお早でしたが まずは二階へと案内されて長五郎は上がっ て行きます。 そるとそこへ与兵衛が亡き父と同じ侍に取り立てられ 名も南方十次兵衛を名乗ることと なり、代官になったと 侍姿で戻って来ます。 与兵衛はお幸が後妻になった夫の先妻の子で 義理の息子でございました。 与兵衛の父・お幸が後妻になった夫は 南方十次兵衛というこの辺りの代官でございまし たが 父が亡くなって後は与兵衛は町人となっていたのです。 これを見て喜ぶお幸とお早でございましたが この時、与兵衛と共にやって来た二人の侍 と与兵衛の話を聞いて驚くのでした。 二人の侍は長五郎に身内を殺され その詮議のため八幡へ来た侍で 代官になり、この 土地にも明るい与兵衛の力を借りたいという事でございました。 二人は人相書きを与兵衛に渡し 日のあるうちは二人の侍、日が落ちてからは土地勘の ある与兵衛、と詮議の分担を決め立ち去ります。 侍が帰った後、お早は長五郎を助けたいとあれこれ言い お幸は人相書きを見ておりまし たが 二階から様子を窺う長五郎の姿が手水鉢に写り与兵衛に気付かれてしまいます。 驚く与兵衛が二階を見上げようとすると とっさにお早が明り取りの引窓を閉じて辺りが暗 くなります。 夜は与兵衛の詮議の時刻。 まだ日は高いと あわてて引窓を開けるお早でありました。 お早が長五郎を助けようとしておりますのを見ていたお幸は 永代供養のため貯めていた 金を持って来て 与兵衛に人相書きを売ってほしいと頼みます。 ここですべてを悟った与兵衛は 大小がなく丸腰であるときは町人だからと言って人相書 きを お幸に渡し気付かぬふりをして抜け道を長五郎に教えると そろそろ夜になるであろ うから詮議の時間だと出かけて行くのでした。 何とか長五郎を逃がしたいお幸は 人相を変えるため前髪を落とし高頬の黒子も落とそう とするのですが 父親ゆずりの黒子まで落とす事ができません。 これを外から見ていた与兵衛が 長五郎に渡そうと思っていた路銀を高頬に投げて黒子を 剃り落とします。 長五郎は与兵衛の情けに やはり逃げられないと お幸の手で縄をかけて与兵衛に引き 渡すよう頼みます。 お幸は引窓の縄で長五郎を縛り与兵衛を呼びますが 与兵衛は引窓の縄を切って差し込 む月明かりに、もう夜が明けた 聞こえてきた九つの鐘に、明け六つの鐘だと言い 自分 の詮議の時間ではないと言うのでした。 与兵衛の情けに長五郎は落ちのびて行くのでした。 日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら) 清姫:玉三郎 船頭:薪車 人形遣い:菊之助 皇位争いから藤原忠文に追われる桜木親王は 安珍という修行僧に身をやつし熊野の 真那古庄司(まなごのしょうじ)の館にかくまわれました。 庄司の娘・清姫は安珍をこころよく思います。 さらに 桜木親王の追っ手が来たためその場しのぎに 庄司が安珍を清姫の許婚だと言 った事から 清姫の安珍への思いはますます強くなるのでした。 ところが桜木親王・安珍には妻・おだまき姫があり 夫・桜木親王を追って庄司の館にや ってまいりました。 藤原忠文による桜木親王の詮議が迫っている事を知って 二人は庄司の館を逃げ出しま す。 桜木親王・安珍がおだまき姫とともに 館から去ったのを知り嫉妬する清姫は、藤原忠文 の追っ手に‘安珍にだまされた‘と聞き さらに怒り怨念に固まって桜木親王・安珍を追っ て行くのでした。 舞台は、日高川の渡し場でございます。 安珍を追って来た清姫は 川を渡してくれるように船頭に頼みます。 しかし先ほど川を渡した安珍に 後を追ってくる娘がいても決して川を渡さないよう頼まれ ている船頭は 清姫を渡してはくれません。 いくら頼んでも聞き入れてくれない船頭に 泣き崩れる清姫でございました。 とうとう その激しい想いから川面に映る清姫の姿は大蛇となります。 これを見た船頭はあわてて逃げてしまいます。 そうして 舟のない日高川を清姫は蛇体となって泳いで渡り 安珍の後を追って道成寺へ 向かうのでした。 心中天網島(しんじゅうてんのあみじま) 玩辞楼十二曲の内:河庄(かわしょう) 紙屋治兵衛:鴈治郎 小春:2〜8、24〜26 雀右衛門 粉屋孫右衛門:我當 :9〜23 翫雀 河庄屋お庄:田之助 舞台は北新地の河庄、紙屋の丁稚・三五郎が小春に治兵衛の女房からの手紙を持って やってまいります。 手紙は‘夫・治兵衛と別れてほしい‘というもので 小春は治兵衛と別れる決心をして返事 を書くのでした。 手紙の事で元気のない小春でしたが 小春を身請けすると言う江戸屋太兵衛が五貫屋 善六と共に小春に会いにやって来ます。 ですが、小春は太兵衛に身請けされるのを嫌がっておりまして 蔵屋敷の侍の客が来ると 追い返してしまいます。 小春のところへ蔵屋敷の侍客が来てしばらくした頃 小春に一目逢いたくて治兵衛がや ってまいります。 治兵衛が門口で中の様子を窺っていると 小春と侍客が奥から現れますが 小春は侍に 治兵衛と心中するのは嫌だと言うのでした。 これを聞いた治兵衛は怒って 格子越しに小春を刀で刺そうとしますが侍に手をつかまれ 格子に括られてしまうのでした。 格子に括られた治兵衛を太兵衛と善六が見つけ 貸した金を返さぬ盗人っと騒ぎ始めま す。 これを聞きつけて河庄から先ほどの侍が出てきて 太兵衛に金を返すのでした。 お礼を言う治兵衛でしたが 侍の顔を見て驚きます。 侍は治兵衛の兄・孫右衛門でありました。 河庄へ戻った孫右衛門と治兵衛でしたが 小春を見て治兵衛は先ほどの愛想尽かしに腹 を立てて怒るのでした。 これを見た孫右衛門は治兵衛に意見し 仕方なく治兵衛は小春と別れる決心をします。 互いに交わした起請文を返す治兵衛と小春でしたが 小春が起請文を取り出す折、懐か ら落ちた手紙を孫右衛門が見つけます。 治兵衛の女房・おさんからの先ほどの手紙でございました。 これを読んだ孫右衛門は 小春の愛想尽かしが、おさんを思ってのことと気付きます。 孫右衛門は小春に感謝しつつ まだ未練があり、愛想尽かしに怒る治兵衛を連れて河庄 を後にするのでしたが 後に残った小春はただ泣き伏すばかりでございました。 |
☆引窓は秋のお話でございます。 1749年に人形浄瑠璃として初演された双蝶々曲輪日記・全九段の八段目に当るのだそうです。 引窓と言うのはどうも昔の家で はたいてい煙出しのために‘かまど‘の上にあったのだそうでございます。 で、天井に換気のためにあった引窓の開閉で 外の明かりも入ってきたということです。 お話の中で放生会が明日だと言っておりますので 旧暦の八月十五日 今でいえば九月中ごろから十月はじめあたり ちょうど中秋の名月の頃でございます。 引窓の開閉で外から入る名月の明るい月明かりと その明るさがもたらす時間感覚が舞台上のお話を紡いでいきます。 舞台の南与兵衛の家がある八幡というのは 石清水八幡宮のある地でございますので 石清水八幡宮の放生会であります。 以前、観劇記録に書きました「教草吉原雀(おしえぐさよしわらすずめ)」も放生会にちなんだ演目でございましたし 梁塵秘抄口伝集「21 石清水八幡参詣」にも石清水八幡宮の事が書いてございます。 私などはHPを書くようになってはじめて‘放生会‘を知ったのでございますが 昔はとてもポピュラーな事であったのでしょう。 お話はホームドラマでございます。 家庭の中に突然に起こった出来事を見る舞台です。 なので、特別に綺麗な衣装が見られるわけでもなく 派手な演出があるでもなく もちろんケレンがあったりするはずもなく ただただ片田舎の地味〜な舞台があるばかりです。 そうして そこで四人のそれぞれの それぞれに対する思いが 語られていきます。 まさに 役者さんの自力を見る舞台でございます。 幕開き 田之助さんのお幸と魁春さんのお早のやり取りが まず 暖かくて とくに ここでの魁春さんのお早は 以前、廓勤めをしていた艶っぽさがとても可愛らしい感じで出ていて 田之助さんのお幸に対して いいお嫁さんでございます。 なので、ここだけで このお家は円満に暮らしているのだとわかるのです。 後妻になったお幸は 今はもうその夫もなく町人暮らしで けして裕福には暮らしていないのでしょうが とりあえずはもめごとがない暮らしをしているのだろうなっと思えるのでした。 そこへ 静かな池にポッチャット投げ入れた石の様に 子供のころに養子に出した実子・長五郎がやってくるのです。 左團次さんの長五郎はピッタリのお役で 実に名高い相撲取りに見えます。 いえ、ただ体型がとか 声の低さがとか そういったことだけでなくて お相撲さんの礼儀正しい感じがあるのです。 長五郎を見て喜ぶお幸に‘欠け椀に一膳盛‘と言いますが これだけで死ぬ気だと言う事がわかります。 このあたりからなのです、細波の様に不安が湧き起こってくるのです。 ここまで、舞台の雰囲気を作ったところで 菊五郎さんの与兵衛が花道から出てまいります。 うまいですね。 連れだって来た二人の侍と 侍に取り立てられたばかりの少し前まで町人だった与兵衛との 雰囲気の違いがキッチリ出ます。 で、ここのところの雰囲気で与兵衛という人は 心根の優しい人なのだということを見せてくれるんですね。 菊五郎さんの この出方はどう見たって‘いい人‘なのです。 この時はまだ長五郎が人を殺して逃げている事を お幸もお早も知りません。 与兵衛の立派な侍姿に喜びます。 幕開きが楽しげであればあるほど ここでの喜びが大きいほど これから後の展開がつらくなるのです。 与兵衛と二人の侍の話を聞いてしまった お早は与兵衛にあれこれ言って長五郎を助けようとします。 お幸を思うお早の気持ちが伝わります。 怒る与兵衛と自分を思うお早の間に入って これをとめるお幸が小さく片手を合わせます。 互いを気づかう気持ちが暖かいのです。 客席で見ていて何とかならないのかと思うわけでございます。 そこへもってきて お幸がコツコツ貯めた小銭を持ってきて人相書きを売ってほしいと言うわけで せつなくて泣けるんですね。 わかってたって泣けちゃうんですよ。 田之助さん上手すぎです。 与兵衛はこの時二階に長五郎がいるのに気が付いているんですね。 二階から覗き込む長五郎の姿が手水鉢に映って それを見るわけです。 決まりますね。 カッコイイ!!! ガット羽織を肩の辺りまで引いて 右足をバンッと前に出して 決まります。 見ていて‘お〜‘っとつぶやいてしまいました。(笑) 総じて菊五郎さんの見得は いつ見てもカッコよく決まって美しいです。(っとワタクシは思います。) で、お幸に人相書きを売ってほしいと言われて‘うん‘っとばかりに丸腰になって 人相書きをお幸に渡すんですね。 ここの ‘うん‘っとばかりになって が篤いのです。 ほんの瞬間のことなのですが これで自分のこれからの人生が左右される一大事なわけで 大きな決断をしているわけです。 義母・お幸のために思い切った事が伝わります。 この後 二階の長五郎に抜け道を教えて詮議のために出かけるのですが 抜け道を教える台詞を2、3回言うのですが(すみませんハッキリ回数を覚えておりません) 聞いていてなんだか鳥肌が立ってきます。 ‘真剣さ‘が伝わるのです。 この後 お幸が二階から現れた長五郎の前髪を落とすのですが 長五郎はお相撲さんで大きくて お幸は年老いて小さいのですが でも 舞台の二人は母子なのです。 田之助さんのお幸は長五郎を子供の様に見ているのです。 いくつになっても子供は子供。 こういうところって 自分の親とか子供とかとダブってしまってヤッパリ泣かされるんですよね。(^^ゞ 手裏剣で黒子を落とすって ど〜なんだぁ〜 っと思ったりしたのですが あんまり細かい事を気にせずに このあたりは泣いてしまうのです。 最後、ケッキョクお幸は与兵衛への義理を思い長五郎を引窓の縄で縛るのですが 究極、たぶんこれが我が子のためと思ったのかしら・・・とも思えるのです。 与兵衛への義理だけでなく こうする事が我が子のためでもあると思ったのかもしれないと・・・。 これを受けて それでも長五郎を逃がす与兵衛の義理の母でも思いは実母の篤さが菊五郎さんの与兵衛にはございました。 ☆日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)は1759年に初演された人形浄瑠璃、全五段の四段目ということでございます。 道成寺の伝説を踏まえたお話ではありますが 上記のあらすじの前半の様に皇位争いと伝説を組み合わせた筋立てになっております。 で、藤原忠文という人物は実在した人で873年〜947年を生きた人でございます。 将門の乱・純友の乱の時、討伐軍におり征東大将軍・征西大将軍に任命されています。 ところが朱雀天皇(こちらのサイト様はリンク集にはございませんが、お気に入りのサイト様でございます)は醍醐天皇の第十一皇子で、母が藤原穏子、皇位を譲った弟は成明親王(村上天皇)でございまして 桜木親王ではありません。 また、朱雀帝となりますとこれはもう‘源氏物語‘になってしまいます。 と、いった具合ですので このあたりから‘お話‘という事になるのだと思います。 さらに日高川を渡った清姫は 安珍・桜木親王を追って行くのですが 道成寺の鐘もろとも焼き殺してしまうのではなくて 桜木親王にはおだまき姫という妻が以前からいたこと 許婚と言うのは追っ手から逃れるためであったことを知って 二人への恨みを捨て 二人を救うために追っ手を斬り倒すのでした。 以上の様な感じでチョッと道成寺伝説とは筋書きが異なるのでした。 で、この舞台は上記のお話の中の一場面(元の浄瑠璃の四段目)を歌舞伎に移したもので 人形浄瑠璃のごとくに人形振りで演じられるのでございます。 玉三郎さんの衣装は黒地に蛇柄(金のうろこ模様)と菊の模様で帯がうこん色にやはり菊の模様、襦袢と裏が赤でございます。 黒に赤がとても映えて 途中、肌を脱ぐところがございますけれど 捌いた黒髪と赤がまたとても美しく見えるのでした。 今回はワタクシ花道近くの七・三あたりの席でございまして 花道から出てきた清姫がちょうど倒れるあたりでありましたので ホントニ久しぶりに手が届くくらいの近さでございました。 ケッコウ嬉しい感じであったのですが ドサドサドサっと花道を四人の大人がいっぺんに出てきて 目の前で倒れこむのにはチョッと圧倒されてしまいました。 それに あんまり近すぎて人形振りの玉三郎さんの視線は遥か彼方で‘え〜んT。T どこ見てんのよ〜‘っといった具合で あんまり舞台に近すぎるのもワタクシにはつらいのでございました。(^^ゞ ですが、清姫・玉三郎さんはほとんど下手にいらっしゃいましたので 今回はず〜っと目の前で観ていられました。 人形振りでありますので いつもの様な‘ど〜だ〜い、カッコイイだろ〜‘みたいな表情はございませんけれど 表情のない、けれど フットすました感じがドキドキするくらい可愛いのですね〜"^_^" ハイ、私はミーハーでございますよ。(笑) 語りにあわせての表情はございませんが しかし無表情でもないのです。 安珍・桜木親王を追う清姫のせつなく深い悲しみがあるのです。 たぶんこれは内側からにじみ出てくる悲しい表情なのでございましょう。 で、観ていてあたりまえですけれど 人形の振りなのですね。 やたらとおおげさに‘ふり‘をするのではありませんが とても綺麗な人形振りなのです。 手の使い方ももちろんなのですが とくに上半身を動かす時に腰から上をまっすぐにして動かすようで 身体を前傾にして身を乗り出すようにする時など 腰から上がまっすぐにククット前に出るんですね。 背中に棒が入っている感じでございます。 これが実に人形浄瑠璃の人形みたいなのです。 今回の舞台で竹志朗さんが薪車さんになられ船頭をお勤めになりましたが 人形振りもとてもよくて大きな感じでございました。 はじめよくわからなかったのですけれど、足の膝から下が作りものの足で まあここだけ‘振り‘ではなくて 人形ということなのですが かえって‘振り‘らしく見えるような感じもいたしました。 でも、これって‘人形振り‘になるのでしょうかね・・・。 いくら頼んでも川を渡してくれない船頭に ますます安珍・桜木親王への恨みは増して とうとう蛇体となって川を渡り始めるわけです。 ここの場面は 人形浄瑠璃の舞台で使われる「がぶ」という鬼面を玉三郎さんが付けております。 (こちらでお人形の画像が見られます http://www.topics.or.jp/jyoruri/page49.html) 舞台を下手から上手に川を渡っていくのですが 後方に蛇体をくねらせて波のまにまに見え隠れいたします。 川を渡りきって反対の岸辺で柳に掴まって振り返る清姫・玉三郎さんの 何と言うのか 恨みで渡りきった川なのに、渡る時は鬼面であんなに恐ろしかったのに、振り返る清姫の表情はけっして恐ろしくはなくて 寂しげ、悲しげ、そんな感じなのでございます。 捌いた髪、蛇体をあらわすうろこ模様のぶっかえりの衣装、ほどけて蛇の様に後方に長く伸びる帯、まったく悲愴な清姫なのでございます。 この場面ももちろんでございますけれど 全体に人形浄瑠璃の舞台の感じをそのまま持ってきておりまして 日高川の岸辺、川を渡る場面、渡りきった向こう岸、など見た感じ似ているわけです。 で、歌舞伎座の舞台は間口もかなり大きめでありまして 川を渡るときなど舞台には清姫一人になるわけでございまして 大きな波も、長く伸びる蛇体もございますけれど でもなんだかスカスカした感じなのですね。 全体としてはモット盛り上がってもいいかな〜と思ったのですけれど。 ☆上方和事狂言の超ポピュラーな演目のヒトツが今回の‘河庄‘でございます。 元は近松門左衛門の人形浄瑠璃‘心中天網島‘を改作した‘心中紙屋治兵衛‘の前半のお話をさらに歌舞伎に移したものが‘河庄‘なのだそうでございます。 で、まず感じたのが‘ヤッパリ和事は関西ね〜‘です。 独特の雰囲気がございます。 鴈治郎さんはじめ上方歌舞伎の役者さんの舞台であったためもございますけれど 場内の雰囲気・空気がガンガン進む江戸歌舞伎とはやはり違うのですね。 茂山家の狂言を観ても思うのですけれど ‘和‘はやはり上方なのだな〜っと思うのでございます。 おぼろな感じの柔らかさ、はんなりした雰囲気は スゴイし新鮮でもあります。 幕開き、紙屋の丁稚・三五郎が河庄へ手紙を持って来るのですが 壱太郎さんの三五郎は雰囲気スゴク良かったと思います。 まず、なにがって イントネーションが関西弁でございますから これはもう舞台の雰囲気を一気に変えてくれます。 かなりいい感じの‘芝居‘をなさっていらっしゃって これからがスゴク楽しみでございます。 で、私が観ました23日は小春が翫雀さんでございました。 急な代役ということでありましたけれど やはり上方歌舞伎の強みでございましょうか とてもいい感じで頑張っていらっしゃいました。 小春が侍姿になった孫右衛門と話をするところなど 小春の気持ちを思えば笑えるところではないのでしょうけれど ‘なんだかますます薄気味悪い‘っと返す孫右衛門の台詞に場内から小さな笑いが起きるわけで かなり小春にしては深刻なときにボケと突っ込みなのでございます。(笑) ですけれど 心中しようと思うほどの治兵衛をあきらめるわけですから その胸のうちは悲しいわけで それなのにドンゾコにならないのが和事なんでしょうね。 こういったところ 翫雀さんとても上手だったと思います。 舞台におおかたの人が出そろったあたりで 花道から治兵衛・鴈治郎さんが出てまいります。 筋書きや歌舞伎座掌本などを読みますと ここの花道からの出が超見どころと言うことでございます。 頬かむりもさることながら 衣装がね、いいんですね。 ぞろりと着流して腰に脇差 紫に白系の縦じまで裏がやはり紫で菱紋の模様なのですが とっても艶っぽいんですね。 ズルズルしているようでしていなくて まったく歌舞伎絵みたいな感じです。 勢い良く出てくるのではなくて 幕が開いてふらふらした‘心ここにあらず‘みたいな感じで出てきます。 で、花道七・三でつまづく様になって 草履が脱げます。 今回、ワタクシが観ておりました席はまさにこの場面、真横でございまして 急に治兵衛が自分の顔の横あたりで草履が脱げて、後を振り向きながら‘ふう〜‘っていうので‘ええっ‘って驚いてしまいました。(^^ゞ だって 息がかかるんじゃないかと思うくらい近かったし 顔のすぐ横に足があったし・・・。 だから〜近すぎはつらいのです。(笑) この後、治兵衛は‘ほ〜‘っとした感じのまま草履を見つけて スッと足先を鼻緒にかけて トントンって地面にあてるんですけれど 私この間ズット治兵衛・鴈治郎さんの足をアップで見る事になるんですね。(^_^;) ハイ、白くて(塗ってありますから)ポッチャリ?したおみ足でございました。 m(__)m 治兵衛は和事のキャラクターでございますのでスッパリ、キッパリはしておりません。 小春の愛想尽かしにも ズッとブチブチ怒っているのですけれど そのブツクレ方がすごくいいのです。 だけど、3年半でしたっけ 付き合っていたんだし、生きるの死ぬのって話にまでなった相手なのに 愛想尽かしが本当かウソかくらい気付けばいいのに〜!!! っと思ってしまいます。(笑) 二人の起請の話など孫右衛門に話す時など なんだか思い出して嬉しそうな感じで 怒ってはいてもまだ小春に未練があるよね ってわかるのでございます。 ここでの台詞もやはり関西の柔らかな言葉遣いが生きておりまして 和事の雰囲気がとてもよいのでございます。 後半の孫右衛門・我當さんとのやり取りもピッタリで、お話としては別れの悲しいお話なのですが お二人のやり取りにホッと笑いが客席から聞こえたりいたします。 孫右衛門・我當さんは 小春といる時は小春とコンビ、治兵衛といる時は治兵衛とコンビといった感じで さらに治兵衛を思いとどまらせようと連れにきた兄というシッカリしたところもあり とても初役だなんて思えないほどいい舞台でございました。 やはり 治兵衛・鴈治郎さんにしても小春・翫雀さんにしても 相方になる孫右衛門・我當さんの篤さがあって奥行きも出てくるのでございましょう。 治兵衛との別れに泣き崩れる小春で幕切れになるのですが 観終わってからあんまりせつないつまされる様な感じが残りません。 これがやはり上方和事狂言というものなのでしょうか・・・。 今回は昼・夜共にかなり舞台に近い場所での観劇でございましたが ワタクシはヤッパリもっと後ろがようございます。(^^ゞ なので、次回11月は一階後方の席でございます。 |