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五人めの家族が我が家に来る事になたのは、ウメ婆ちゃんが来てから 三年ほど過ぎた頃 ようやく四人家族の生活に慣れた頃でした。 なぜもう一人家族が増える事になったかというと、私の連れ合いが来る 事になったからでした。 私と連れ添う事になってしまった人は、旧姓を伊藤 明と言います。 その頃の私は まあ 仕事も家での生活もそれなりに楽しくやっていて ウメ婆ちゃんも落ち着いたし 自分の好きな事などもそこそこできて この 状態が続く事を嫌だとは思っていませんでした。 二十代後半の頃は、なんだか早く結婚しないといけないような そんな 変な感じがあったのですが、さすがに三十を越えると 落ち着いてしまって 逆に今が結構いい調子なのでこのままでいいかな、と思っていたのでした。 そんな時、私と連れ添う事になってしまった伊藤 明さんと会ってみないか と話を持ってきた人がいました。 で、その人・・・私の親戚の人なのですが、この人が言うには、 「明クンはね、学年はあなたと同じだと思うけど早生まれだから たぶん 年下なのよ。でもいい子だし、まあ頭もいいんじゃない・・・大学出てるから。 だけど長男なのよね。家も新しくしてね、お嫁さん探してるんだって。どお 会ってみない?」 「ごめんね。せっかくなんだけど、今は結婚とか考えてないんだよね。」 「あんた、そんな事言ってると結婚できなくなるわよ。」 「いや・・・別にできなくてもいいけど。しないといけない決まりがある訳でも ないし・・・。」 「そりゃあそうだけどね、でも 後で別れるにしてもさ一度は結婚しといた 方がいいのよ。」 「別れる事を考えて結婚なんてするもんなの?」 「そりゃあいろいろあるのよ。好きなだけじゃ生活なんてできないんだか ら。」 「だからさ、会わなくていいって。だいたい別れる事を考えて会うなら 会わ ない方がいいんじゃない。私 思うんだけど、いっしょになるより別れる時の 方がすっごくエネルギーいるんじゃないかな。やだよ そんなの。会わなくて いいからね。この話はおしまいね。」 と、こんな話で・・・これは、実際にあった会話で 私としては今でも なんで 後で別れるにしても一度は結婚しといた方がいいのか疑問なのです。 他にも同じ様な話があったので、その都度 丁重にお断りして 全て過去 の話と思っていたのでした。 それから約一年くらい過ぎた頃 かの親戚のおばさんがまた言うのです。 「あのさ・・・前に話した明クンのこと覚えてる?」 「だれ・・・?」 本当にこの時私は、この名前にピントこなかったのです。 だいたいこの時分私は精神的にも金銭的にも体力的にも絶好調で、まず 毎日が楽しいぞ状態で 土日の休みともなれば、チケット片手に毎週どこか の劇場へ出かけていました。 本を読み絵を描き原稿を書いて、休みには劇場へ行き半券ちぎって場内 へ入れば 暫し現とはおさらば、なんて生活をおくっていたので 一年近くも 前の それも断った結婚話の相手の名前などピントこなかったのでした。 「ずいぶん前にさ、話したじゃない・・・。お嫁さん探してるって。」 「・・・・・」 「伊藤 明クン。」 「・・・・・」 「この前 お母さんに会ってさ、まだ会わせてくれないのって言われちゃっ てさ・・・。どお・・・会ってみない?」 「なんで? 会わないよ。断ったじゃない。それって、一年くらい前の話で しょ・・・。」 「そうなんだけどね・・・。断られたって言うの悪い気がしてさ、そのままに しちゃたのよ。返事がなければ察してくれると思ってさ。そうしたら、なんか ずっと待ってたみたいなのよ。」 なんと! 断った事を伝えない方も、返事がないのに一年近くも待ってる方も、いっ たい何を考えているんだ! こっちは何にも知らないから、もう終わった話だと思っていたから、そんな 事忘れて、週末ともなれば歌舞伎座なんぞで芝居をみたりしていたのです。 だいたい もし私が誰かと付き合っていたりしたら、一年近くも待っている 方はたまったもんじゃない と 思ったりするのでした。 あー・・・私が誰かと付き合うなんて考えられなかったのかしら・・・。 たぶん、絶対一人でフラフラしていると思ったのでしょうね。 「私が他の誰かと付き合ってたりしたらどうするわけ?」 「いないんでしょ。」 あーやっぱり・・・。 「とりあえず、会うだけ会ってさ 嫌なら嫌って言っちゃてよ。それでいいか ら。後でまた電話でもするから。」 ひどくない・・・。 私にもだけれど、それ以上に相手の人に・・・。 で、私としては あんまりな親戚のおばさんの話に、一年も待っている相手 の人がちょっと気の毒になってしまって、とりあえず会おうと思ったのでし た。 始めに会ったときは、お互いの名前なり連絡先なりを教えただけでした。 日曜に会ったのですが、私の方が夕方から劇場に行くことになていたの で(その事は言いませんでしたけれど・・・)、さよならしたのでした。 二度目に会った時は、まともに話をしました。 しかし・・・私はできればもう会わないですめばと思っていたのです。 始めに会ったときに印象がよくなければそれでおしまいなわけで、そうなっ てくれればと思っていました。 でも、話したいからと電話があったのでした。 「もしもし。急に電話しちゃってごめんね。今 新幹線の中なんだ。出張の 帰りでさ。今度の土曜日 会えるかな? お土産買ったんだよ。たいしたも んじゃないんだけどね、渡したいんだ。」 私がいけない訳じゃないんです! でも、とにかく 会わないなんて言ったら後で私自身がへこみそうで言えま せんでした。 とても楽しそうな声だったので・・・。 二度目以降ずっと同じだったのですが、会って話をするのはファミレスでし た。 駐車場があるからです。 たがいに車で乗りつけ、話をしてそれぞれの車で帰るわけです。 明さんが乗っていた車は、1300のスリードアのコルサでカラーは 紫っぽ い青。 もちろんオートマ。 購入後1年。 私が乗っていたのは、1500ファイブドアのコルサでフロントミラーのノー マルスポーツパッケージのもうじき10年になろうかというボロ。 なんというか・・・打ち合わせをしているようなのでした。 この時も、おたがいによく知っているファミレスで待ち合わせたのでした。 「これなんだけどさ・・・。あんまりこういう買物 得意じゃなくてさ。」 そう言いながら明さんは片手に乗るくらいの箱を、二人の間にあるテーブ ルに置きました。 包みを開けると、首ふりの陶でできた小さな人形が入っていました。 「どうもありがとう。」 と、言ったものの なんて言うか 自分の気持ちとしてはすっきりしませ ん。 べつに、騙しているとかいうことではないのですが、やはり こちらの思う ところは伝わっていないわけで 早く思うところを言わないといけないと感じ るのでした。 しかし、モタモタしている間に話始めたのは明さんの方でした。 「実はさ・・・人から紹介されて誰かと会うのは今回がはじめてじゃないん だ。前にも何回かあったんだ。でも うまくいかなくてさ。」 「まあ そうだろうね・・・。 話が進んでたらここにいるわけないだろうし。 でも それはまあ 私も同じ事だから。」 「僕はさ、断られちゃったんだよね。」 「同じだって。断った事もあるけど 断られた事もあるし・・・。」 「平気だった?」 「うーん・・・。始めに断られた時はちょっとくじけたかな。でもまあ、むりして も仕方ない事だし、だめなら早いうちに終わりにした方がいいんじゃない。」 「僕は、なかなか立ち直れなくて 今でも結構つらいんだよね・・・。」 (あらま・・・。あんまり乗り気ではないとか嫁には行けないとか 言い出し にくくなってしまったかしら。) 「ふーん。でもダラダラ続けていても、先に進まない話ならもっとつらくなる んじゃない。」 「そうなんだけど、あちこち遊びに行けたらななんて思っていたから。」 「あー・・・。でも三十も過ぎて夢多きって事もないんじゃない。私がさめて るのかもしれないけど、恋愛ごっこみたいな事を考えたのなら それは、出 逢い方が違ってると思うけど。この歳で人に紹介されて会うんだから、生活 が先にあると思わないと。」 「そんなものかな。」 「そうじゃない。生活を前提に付き合い始めるわけだし、その始めのところ が合わないとしたらやめたほうがいいんじゃない。結果が生活であっても、 恋愛から始まるのと紹介されて始まるのでは やっぱり過程が違うと思うけ ど。」 「つまらなくない・・・。」 「遊ぶなら遊ぶ相手を自分で見つける。恋愛するならそういう相手を自分 で見つける。その後そういう相手と生活するならする。別に生活する相手を 見つけるなら紹介してもらってもいい。そんなのはさ、自分で決めることだ よ。つまるも、つまらないも、自分で選ぶ道だよ。つまらなければ、つまるよ うな相手を見つければいいじゃない。」 「はっきりしてるね・・・。」 この時の私は、言いたい事を言っても べつに何も困る事はないのでし た。 「後で あの時ああしていればよかった こうしていればよかった、なんて 後悔するのは嫌だから、今 よく考えて、めいっぱいガンバルのはいいけれ ど過ぎた事をつらいとか立ち直れないとか言っててもどうなるの?もう その 時はもどってこないよ。あった事はなくなりはしないんだし。そしたら、その時 を その事を 踏まえて これから自分はどうしたいか、それをするにはどう すればいいのか、って事でしょ。それで、おたく 一年近くも返事のない私の 話を待ってたの?」 「なんだか怖くてさ・・・。もし 断られたら、自分を否定されたみたい で・・・。」 (ますます 断りにくくなってきた・・・。でも、それ以上に言いたいことも あったりしました。) 「なんで、否定とかなっちゃうの?二人で生活していくのに、とりあえず今 は自分にあなたと生活していく自信がありません。って事で、お断りなんじ ゃないの。好きとか嫌いとか生活できるとかできないとか、そういう事は おたくがどうのこうのじゃなくて 相手の持っている問題でしょ。おたくは、 おたくで いいんじゃないの。だいたい、自分がシッカリしたものを持ってい れば、なんでもない事だと思うんだけどな。自分は、こう生きたい こういう 生活を送りたい その為にこうしていきたい、って言うのがしっかりあれば、 後は自分の思うところと周りの動きとの兼ね合いでしょ。自分と他人では、 こうしたいと思うことが違ってあたりまえで、その差が大きくて折り合いが 付かないから断るんで おたくを 否定するとかそういう事とは違うと思う けど。」 「なんか こういう事に慣れてなくてさ。友達はいるけど付き合う女の子は いなくて、みんな友達以外は考えられないって言うんだよね。」 「慣れる事はないと思うけど・・・。よーするに‘いいひと‘なんだ・・・。」 結局、この時はこれ以上言うのはやめました。 結構 言いたい放題言ったので、明さんのほうから断ってくるかもしれな いし、もし次に会うことになったらその時は こちらの思うところを言おうと 思ったのでした。 次の電話も会って話がしたいというものでした。 今度こそちゃんと言わなきゃ。 三度目、今回は初めからきりだす事にしました。 「あのさ、今日は初めに言わないといけないことがあるんで、とりあえず それを言わせて。」 「大事な事なんだ。」 「本当はもっと初めに言った方がよかった事だと思うんだけど。でも、初め に話があったとき一年近く前の時、私はちゃんと言ったんだよね。あのさ、 おたく お嫁さんを探してるって聞いたから、嫁に行く気は無いって言ったん だよね。あの、勘違いしないで欲しいんだけど おたくに会う前から嫁に行く 気は無かったんで、全くこっちの私の都合なんだよね。だから、おたくが、 嫌な奴だと思って言ってる訳じゃないのよ。話が合わないとか見たくも無い とか そんな事は無くて、逆に同じ理工系の人間だし 結構いろいろ話もで きるんだけど、でも 初めの条件って言うのも 縁のうちだと思うから だめ なものを続けていても仕方ないしね。だいたい、私の親戚だから おたくに は、申し訳ないとしか言いようもないんだけど、ちゃんと私の言った事を伝え てくれていなくて一年近くもたってから、会って自分で言ってくれって言うか らさ、ごめんね・・・。」 明さんは驚きもせずがっかりもしていませんでした。 「あー・・・やっぱりね。なんとなく そうじゃないかと思っていたんだ。初め に話があってから、ずいぶんたつのに返事が無いし、君と話していてもそん な感じだったし。そうは思っていたんだけど、実際自分でそれを聞くのは今 度が最初だから 急にそれでどうしろと言われても困るよ。少し時間をくれ ないかな。」 「時間・・・?」 「少し時間をちょうだい。ちょっと考えたいんだ。」 「・・・・・。」 何を考えるんだい? 私としては、これで全ておしまいと思っていたので この展開にかなりビッ クリしたのでした。 今までもこの手の話はあって、私が家を出る気がないと返事をするところ でみんなおしまいになっていました。 だからもちろん今度もそのつもりでいたのです。 「いいかな、もう少し待ってもらって。」 「いや・・・別に それはかまわないけど・・・。」 結局 私はもう少し待つ事にしました。 と、言っても一年近くも待っていたのは明さんの方で、私はほんの一ヶ月 くらい前までこの話自体終わったものだと思っていた訳で、ここで少しくらい 待ったてそりゃあいい話だと思ったのでした。 四度目もやはりファミレス。 この場所は、なぜか近間にファミレスが五軒もあって場所は毎回違うの ですが、やっぱりファミレスなのでした。 「君が僕の家に来れないって言うのは君が一人っ子だから?」 話を切り出したのは明さんでした。 「それももちろんあるけど・・でも、その事よりやっぱり自分の気持ちかな。 今ね すごくいい状態なのよ。少し前まで、ウメ婆ちゃんの事で結構バタバ タしたんだけどね それも落ち着いて家族がそれなりに自分のペースで動き 出したって感じで、私としてもまあそういうベースがあって 仕事も自分の好 きな事もいい感じでできているから、それを無くすのが嫌なのよ。足場が固 まってきたのに生活のスタンスを変えるのが嫌なんだよね。要するに、わが まま・・・。だから言ったんだ一年も前に結婚なんて考えてないって・・・。」 「あのさ・・・この前の時に話した事 家に帰って家族に話したんだ。そした ら新しい家もあるし 一度家を見に来てもらったらどうかって言うんだ。そう したら気も変わるかもしれないって・・・。結構 土地もあるし 家も大きいん だ。どうかな・・・。君の気持ちの問題で家を出たくないと言うなら、気持ちが 変わるかもしれないし。」 「ヘヘ・・・。それ まじめに言ってる?」 ちょっとあきれて笑いながら言いました。 かっこつけると、‘肩をすくめて 首を少し横にふって‘ と 言うところで しょうか・・・。 そんな気持ちで、笑いながら言いました。 「私は、不動産を探しているわけじゃないよ。駅から近し美築日当たり良 好カースペース有りって感じ。悪いけど興味ない。いや、価値観の違いかも 知れないけど、そういう事をまず第一に考える人もいるんだろうけど。財産 とかお金とか、まあ もちろんお金がなきゃ生活できないしね。でも 分相 応って話もあるじゃない。まともに仕事して稼いで食っていければ、いいか なって思うんだけど。仕事する為のベースになる環境ってのは、大事だと 思うけど 特に精神的に落ち着ける生活のスタンスって言うようなものは ね。でも、それは私の場合は不動産ではないな・・・。だいたい 家を新しく したって話は一年も前に聞いてるよ。聞いてて行かないって言ってるんだ けど。」 明さんもニヤニヤ笑っていました。 「やっぱりね。そう言うと思ってた。でも、一様は聞いてみないと家族の 者に言いようが無いから聞いたんだけど 僕が思ったとおりの答えが戻って きたよ。」 「ああそう・・・。でもさ、もしここで私が ‘わーすてき!きれいな家がある の。不動産持ってるんだ。財産があってお金持ちなんだ。やっぱり私お嫁 に行くわ。‘ なーんて言ったらどうした? うれしかったかね?付加価値を 選ぶっていうことだよね。まあ・・・そういう人もいるけどね・・・。あれだけ 自分のスタンスを言っておきながら不動産につられて嫁に行くなんてのも ね・・・節操がないと言うか ちょっと怖いと言うか 寝首をかかれそうと言う か そんな感じだよね。」 「生命保険も入ってるけど・・・。」 「ほんと・・・。」 「そういうの何もやってないの?」 「死んだ時のことなど考えてないもん。今よ今。今 どう生きるかよ。後は 野となれ山となれ。」 「そうなんだ・・・。それでさ・・・もう少し待って欲しいんだけど。家の者に 君はやっぱり来る気は無いって話すから。」 話してどうするんだと思ったのですが、まあ 一ヶ月半ほど待つ事になりま した。 十二月の初め頃 明さんは、こう決着を付けたのでした。 「僕が、君の家へ行くから話を進めてくれないか。」 どうしてこうなったのか、この時 明さんがどう思ってこう決着を付けたの か今でも私はわかりません。 勢いかもしれないし、何か思うところがあったのかもしれないし。 聞きもしないし、聞いても答えようもないのかもしれません。 もし、この世の中に‘縁‘なんてものがあるとしたら これが、そういうもの なのかもしれません。 流れとか交差するものとか そういったもの。 実は、私としては 来てもらってもどうすんの と思うところもあったので す。 なるべく波風立てたくない、平常を乱したくない、足元をぐらつかせたくない 家のなかに人が増えればそのぶん不確定なものも増えるわけで、神経質に それが嫌だったのでした。 でも、とりあえず 流れに乗るのもいいかもしれないとも思いました。 で、私は流れに乗ったのでした。 |