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ウメ婆ちゃんはちょうど亡くなる一年前くらいから 特別養護老人ホームで行っている デイサービスに行くようになりました。 今からもう7、8年ほども前の事でございましょうか まだ介護保険ができる前でありましたので かえってウメ婆ちゃんがこの様なサービスを受けるのには都合が良かったのでした。 当時は今ほどデイサービスとか訪問医療とか知られていなかったようで 私たちも この様なサービスがあることさえ知りませんでした。 きっかけは 第二子・長女が生まれたことでした。 出産があった事を最寄の保健所に連絡すると 保健士さんが来てくれました。 子供の様子や お母さんの産後の状態などを見に来てくれて 何か困った事などあったときには 相談にのってくれたり 保健所や地域の子育て支援の案内などをしてくれるのです。 本当は 初めての子供の時だけで 特別な事がないと二番目の子からは来ないのですけれど この時来てくれた保健士さんはちょうど新しく赴任してきたばかりの方で 受け持ちの地域の事が少しでも早くわかるように アチコチまめに歩いているのだとおっしゃっていました。 で、長女も私もべつに健康には問題もなく特別な事もなかったのですが この時、保健士さんは 少し痴呆のあるウメ婆ちゃんをかかえて 小さい子供二人を育てている私や とくに母・すじ子さんを気遣ってくれたのです。 老人介護と子育ての両方では 家族が大変ではないかと言ってくれました。 それで 家族が少しでも気が抜けるような事を 探してくれることになったのでした。 でも、私たちはデイサービスのことなどその時はぜんぜん知らなかったので いったいどんな事ができるのだろう・・・と半信半疑でありました。 しばらくして もうそんな話は忘れてしまった頃 保健士さんがわざわざ電話をくれました。 保健士さんは ズットあちこち都合のよさそうな所を探してくれていました。 で、わりと近くの特別養護老人ホームで 昼間の間だけお年寄りを預かってくれて料金はお昼ご飯とおやつ代だけでいいというサービスがあると教えてくれました。 なんと言うのか お年寄りの幼稚園のような感じです。 送り迎えはホームのバスが来てくれるとの事でした。 すじ子さんは はじめ‘特別養護老人ホーム‘ということにチョッとこだわっていました。 もともとすじ子さんがウメ婆ちゃんを我が家へつれてきたのは 老人ホームなどの施設に入れるのがかわいそうだと思ったからなので それなのに特別養護老人ホームに預けるのは気が引けたようなのでした。 でも、やっぱり息抜きは必要だと思ったので 「べつに ズット預けっぱなしじゃないんだから いいんじゃない。それにウメ婆ちゃんだって いつもいつも家にばかりいたんじゃつまらないだろうし、前みたく暴れたりもしなくなって落ち着いたし 送り迎えもしてくれるんでしょ。かえって特別養護老人ホームだったら何かあっても対処してもらえるじゃない。」 と、私は言ったのでした。 すじ子さんは せっかく落ち着いているウメ婆ちゃんがまた暴れるようにならないかしらと心配してもいたのですけれど その後も何度か保健士さんが電話をくれたりしたので ようやくデイサービスを利用することにしたのでした。 ホームからいわれた昼食とおやつの時に使うコップとお箸を用意して 汚れたときの着替えと一緒に手提げ袋に入れ ウメ婆ちゃんを朝の迎のバスに乗せました。 はじめウメ婆ちゃんは 自分一人しかバスに乗らないので少し不安そうでしたけれど 次にバスに乗る時には 「行って来ま〜す。」 なんて ニコニコしながらバスの窓から手を振っていました。 バスにはデイサービスの時に面倒を見てくれる介護士さんや看護士さんがいつも一緒に乗っているので バスの乗り降りの時や席に座る時なども安心でした。 デイサービスは一日おきで 朝9:00頃バスが来て夕方4:00頃に家に帰って来ます。 その間ウメ婆ちゃんはホームで 絵を描いたり、歌を歌ったり、工作をしたり、お習字をしたり、体操をしたり 月に二回お風呂の日があって、その日は皆でホームの大きなお風呂に入って 爪きりなどもしてもらってきました。 自宅でウメ婆ちゃんをお風呂に入れるのは 入ってくれるまでが、お尻が重くてなかなか動いてくれないので大変だったので 入浴日はすじ子さんがとても喜んでいました。 何回かホームの‘お食事会‘とか‘文化祭‘とかで 一緒にお昼を食べたり遊びに行ったりしたのですが ウメ婆ちゃんは他のお年寄りやホームの人たちと楽しそうにしていました。 秋には動物園へ遠足に行ったりもしました。 ホームのバスで連れて行ってくれて 動物園の中は車椅子で回ります。 ウメ婆ちゃんは歩けないわけではありませんが 動物園の中を歩き回るには少し広すぎるのです。 やはりホームの介護士さんや看護士さんがいろいろ面倒を見てくれました。 ウメ婆ちゃんは病気で寝込む事もなく ほんとうにある日突然‘ポックリ‘逝ってしまったので ホームでお世話になっていた介護士さんや看護士さんもビックリして お線香をあげに来てくれたほどでした。 ちょうどGW中で 休み明けにはまたデイサービスのバスが迎えに来ることになっていたのです。 しばらく後になって いろいろ落ち着いてきた時分にすじ子さんがウメ婆ちゃんの荷物を片付けていた時 以前、敬老の日にウメ婆ちゃんがホームの皆さんからプレゼントでいただいたアルバムがでてきました。 白地に青い小花の可愛い表紙のアルバムでした。 「これ、どうしたの?」 と、傍らで見ていた私がたずねると 「なんだろうね・・・デイサービスでもらったみたいなんだけど なんでもらったのか忘れちゃった。」 はじめ すじ子さんもなんでいただいたものかわからなかったのですが 一緒に付いていたカードに‘敬老の日 おめでとう。これからも長生きしてたくさん写真を貼ってください。‘と書いてあったので プレゼントであるのがわかったのでした。 何気なく可愛い表紙をめくって 私もすじ子さんも一瞬息を呑みました。 なんて楽しそうで嬉しそうな顔でしょう・・・・。 表紙をめくった右側のページの真中に ニコニコ笑うウメ婆ちゃんのアップの写真が一枚貼られていました。 しばらく 二人とも黙ってしまったのですが 「写真撮るのいつも嫌がってたのにね、なんだかスッゴク楽しそうだね。こんな写真あるの知ってたの?」 と、私が聞くと 「ぜんぜん知らなかった。だってアルバムもらったのも忘れてたくらいだから。」 けっこういい加減なすじ子さんの答えでございました。 「遺影に使えたかもしれなかったね。」 「こんなにニコニコ笑ってたら使えないわよ。」 「そんなもんなの・・・。」 私はウメ婆ちゃんの遺影にする写真を探すのに苦労したので こんなことを言ったのでした。 でも、すじ子さんは 「楽しそうで良かった。ねっ・・・楽しそうに写ってるよね。」 「楽しそうだと思うけど、どうして?」 「なんだかね、老人ホームに預けちゃってかわいそうかなってズット思ってたから・・・でも、こんなに楽しそうで嬉しそうに笑ってるの見たら安心した。」 すじ子さんは やはり少しの間でもウメ婆ちゃんを手放す事を気にしていたのでした。 「家にいてツラツラ居眠っているより ゼンゼン楽しいと思うよ。お昼だって家で食べるものよりおいしいもの食べられるしさ。」 「私が面倒見るって言ったのに 人に預けるの気が引けたのよ。でも、この写真見てデイサービスに行ってよかったと思えたわ。最後の最後まで楽しかったみたいだから。」 ウメ婆ちゃんの写真はアルバムからはずしてすじ子さんがしまいました。 後に続く写真がないからです。 アルバムは 私がもらいました。 ウメ婆ちゃんの写真は貼れませんでしたけれど かわりに長男の写真を貼りました。 ウメ婆ちゃんが膝に乗せて絵本を読んでくれた子です。 三人兄妹弟のなかで 長男だけがウメ婆ちゃんの事を覚えています。 大きくなってアルバムをわたす時‘このアルバムはウメ婆ちゃんからもらったんだよ‘と教えようと思っています。 |