プレゼント                   もくじへ戻る トップページへ戻る

 今回の話が公開されるのは きっと年明けの2005年になってからだと
思います。
 それなので 書いている今はタイムリーな話なのですけれど 皆様がお読
みになられる頃は少し時期が過ぎてしまっていると思います。
 なにぶん書くのが遅いうえに 今回梁塵秘抄の方でかなり時間を使いまし
てこちらがかなり遅れてしまいました。

 で、なんの話しかといえば クリスマスの話なのでございます。
 私はもともと三人家族でありましたけれど この頃から誕生日やクリスマス
などにはとりあえずケーキなど買って 父や母に何かしら(たいていは近くの
スーパーの商品券でしたけれど・・・)プレゼントをしたものでした。
 それはウメ婆ちゃんが来てからも変わりませんでした。
 ただ ウメ婆ちゃんに商品券をプレゼントしてもしかたないかと思って 
そのぶんをすじ子さんにわたして 後日すじ子さんが何か、服とか食器とか
ウメ婆ちゃんの物を新しく買っておりました。
 なので、ウメ婆ちゃんは じかに品物をわたされているわけでもなく 身の
回りの物・服や食器などが新しくなっても気付くわけでもないので プレゼン
トを意識する事はなかったようなのでした。
 なんであれ 食卓にケーキが出るので とにかくそれを食べましょうといっ
たところなのでした。
 だいたい なんでケーキがあるのか そんな事はどうでもよかったわけな
のです。
 それが この時のクリスマスだけは 違ったのでした。
 長男が生まれて二年九ヵ月 この時にはもう第二子・長女も生まれていて
一年二ヵ月になっておりました。
 まだ子供たちはクリスマスなどといっても 何の事だかよくわかりはしない
のでしょうけれど 親としてはプレゼントの一つも買ってやって 子供の喜ぶ
顔が見たいと思ったりするわけなのでした。
 それで べつに子供たちが何か欲しがるわけでもないのに‘サンタさんに
何をもらおうか‘などと聞いたりするわけです。
 それまでは 大人ばかりのクリスマスであったわけですから テーブルに
クリスマスケーキがのっていたとしても マアそれほど賑々しいものではあり
ませんでした。
 でもこの時のクリスマスから 子供を中心にツリーを飾りクリスマスソング
を聴きながら━子供たちは調子っぱずれに歌っておりますけれど・・━当て
くじをしたりゲームをしたり、今では兄弟三人で賑々しいをとおりこして うる
さいほどの大騒ぎで つきなみではあるのですが 親はその騒ぎをビデオに
撮ったりしているのでした。
 で、まだ子供たちが小さかったこの時のクリスマスは BGMにクリスマス
ソングはかかっておりましたけれど プレゼントの希望などもなかったので 
サンタさんの気分で買った実用的な洋服や絵本などが 赤と緑のラッピング
でテーブルの上にケーキといっしょにならんだのでした。
 今のサンタさんは子供たちのジジ・よし雄さんなのですが この頃はまだ
私がサンタでございました。
 ですからプレゼントも私が近くのスーパーへ買いに行きました。
 そしてこの時は すじ子さんに頼まれてウメ婆ちゃんのプレゼントも一緒に
買ったのです。
 すじ子さんはこんなふうに言っていました。
 「きっと子供たちにクリスマスプレゼントをあげるのを見たら ウメ婆ちゃん
も欲しいと思うんじゃないかしら・・・。ひとりだけ何もないのは かわいそう
だから あんた子供のプレゼント買いに行くんなら ウメ婆ちゃんのプレゼン
トも買ってきてあげてよ。」
 あー確かに・・・別に仲間はずれにするわけでもないし ほかの大人たち
だって特別な物をプレゼントでもらうわけでもありませんけれど でもやはり
ウメ婆ちゃんは 目の前で子供たちがプレゼントをもらった時に 自分にも
何かプレゼントがあったら喜ぶだろうな・・・とは思いました。
 少なくとも 後で商品券をすじ子さんにわたすよりは良いように思えます。
 私はいつも行く近くのスーパーで 子供たちのプレゼントとウメ婆ちゃんの
プレゼントを買ったのでした。
 それは まあ どこにでも売っていそうな 少し軽い感じのセーターでした。
 藤色のあまりモコモコしていない着やすい感じのセーターで 胸のところに
花の刺繍がしてありました。
 それを ギフトボックスに入れてもらって赤と緑のラッピングをしてもらい
シールリボンを付けてもらったのです。

 クリスマスは自分の欲しいおもちゃなどを買ってもらえるチャンスだなどと
知る事もない子供たちは だいたいなんでケーキやケンタが食卓にあるの
かもわかってはいないくらいなので 私達大人がカメラやビデオを片手に
 「よかったね〜今日はごちそうだね。」
 なんて言ってもキョトンとしているのでした。
 なんだか 何も知らない子供たちに よけいな事を教えてしまっている様な
気がいたしました。
 CDのクリスマスソングをBGMに飾り付けのかわいらしいケーキを食べて
いよいよプレゼントをわたします。
 この翌年からプレゼントは翌朝テーブルの上に置いておく様にしたのです
が この時は直接みんなにわたしました。
 まだ子供がプレゼントをくれるサンタさんを意識していなかったのです。
 はじめに子供たちにそれぞれの包みをわたします。
 もらっても なんだかよくわからないようで ポッさとしておりました。
 しかたがないので私が包みを開けて それからウメ婆ちゃんにセーターの
プレゼントをわたします。
 ウメ婆ちゃんは子供たちの様子をずっと見ていたのですが 自分にも
何かあることに気が付いてビックリした様子でした。
 「あれ、あたしにもあるのかい?」
 「うん、これがウメ婆ちゃんのプレゼント。」
 「なんだろうね・・・。」
 包みを裏表にひっくり返しながら ふったりしています。
 「婆ちゃん、ふったって音なんかしないよ。開けてみなよ。」
 「そうかい・・・。軽いね。」
 ブツブツ言いながら 止めてあるテープを爪でとりはじめました。
 この歳の人は とにかく物を大事にします。
 べつに何に使うわけでもないのに 包装紙を丁寧にとって キチンと
たたむのです。
 それもかなりの時間をかけて・・・。
 きれいに包装紙をとってたたんだ後 ようやく箱のふたを開けました。
 「なんだいこりゃ・・・。あ〜セーターだ。」
 箱から藤色のセーターを出して 顔の前にヒラヒラとひろげます。
 「刺繍がしてあるね。」
 そうして前・後ろをながめながら
 「へへ・・・シャレた色だね。」
 なんて言って体にあてて見るのです。
 私はこの時のウメ婆ちゃんの‘シャレた色だね‘と笑いながら言った
その声と笑顔を忘れる事ができません。
 照れて‘へへ・・・‘と笑う その笑顔が本当にうれしそうに見えたのです。
 たとえば自分が生きている一生のうち どれほど自分以外の人の暖かな
思い・安らいだ笑顔・幸せそうな表情 そういったつかみどころのない でも 
確かにそこにあって感じられる人の思いを 受け取ることができるのでしょう
か。
 この時 私はウメ婆ちゃんから それをもらったと思いました。
 ウメ婆ちゃんがこの時どう思ったか そんな事は私にはわかりはしませ
ん。
 ただ セーターを手に笑うウメ婆ちゃんがとても暖かく・優しく・穏やかに見
えて それが私にはとてもうれしく感じられたのでした。

 年が明けてお正月に 近くに初詣に行きました。
 子供たちも一緒に家族七人でお参りに行ったのでした。
 門松や正月飾りなどがきれいで紅白の花を咲かせた梅の松竹梅の寄植
えなどが飾ってあって 道々屋台などが出て いい匂いがしておりました。
 おおぜいの人の流れにのって礼拝殿まで行ってお参りします。
 この日 ウメ婆ちゃんはクリスマスプレゼントにもらった新しい藤色のセー
ターを着て行きました。
 もちろんウメ婆ちゃんは そのセーターがクリスマスプレゼントであった
ことなど覚えてはおりません。
 礼拝殿の畳に 上着を脱いでチョコンと座り‘パンパン‘と拍手を打って手
をあわせているウメ婆ちゃんの藤色のまあるい背中が なんだかとっても暖
かくて穏やかに見えました。

 人の心の行ったり来たりは たぶん そんなに大きなきっかけがいる事で
はないのでしょう。
 スーパーで買ったありふれたセーターが チョッとした思いを伝え 伝わっ
た思いにチョッとした穏やかな暖かさが帰ってくる。
 そんな事の繰り返しが 思いやりとか言った様な事になるのかもしれま
せん。
 ただチョッとした事であるからこそ そのきっかけに気付かないとか やり
過ごしてしまうとか そんなことが多いのだと思うのです。
 クリスマスになるといつも思い出す笑顔と 初詣の時の藤色の穏やかな
まあるい背中は私がウメ婆ちゃんからもらった最後のクリスマスプレゼント
とお年玉でございます。






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